2011年1月20日木曜日

「ニューロ・ファジイ・遺伝的アルゴリズム」を読む

ニューロ・ファジイ・遺伝的アルゴリズム
1994
白井 克彦
産業図書

情報処理の新しい技術として注目されているニューラルネットワーク,ファジイ理論,遺伝的アルゴリズムについての概要,歴史,応用例などをぬるりと解説した本.全体像をつかみやすく,入門書として最適だと思う.たぶん.




1 はじめに
(1) 現在のコンピュータと人間
●コンピュータの演算速度は非常に速い.しかし,人間が簡単にやっていること,例えば,パターン認識,学習.自己組織化などは非常に不得意.
●現在のコンピュータの多くは,情報をディジタル表現して直列的な処理を行っている.
●一方,人間の脳は情報をアナログ的に扱い,分散的処理を行っている.

(2) ニューロコンピュータ
●人間の脳は最も知的な情報処理システムと考えられる.この脳の情報処理方式を積極的に模倣しようとする新しい原理によるコンピュータ.

(3) ファジイ理論
●客観性を重んじ厳密性を追求してきたこれまでの科学に対し,あいまいさや主観性を積極的に扱おうとする理論.

(4) 遺伝的アルゴリズム
●生物の進化のメカニズムを工学的に模倣しようとする技術.

(5) ニューラルネットワーク,ファジイ,遺伝的アルゴリズム
●ニューラルネットワークは,数値データのみを扱う場合に適している.
●ファジイは,ルールがある程度わかっている場合に適している.
●遺伝的アルゴリズムは,多くの組合わせの中からの選択能力に優れている.
●しかし,これらはどれも完成されたものではなく今後の発展が期待されている.その一つの方向は,融合による特性向上である. 


2 ニューラルネットワークとは何だろう
(1) 人間の脳
●約140億のニューロン(神経細胞)からなる.
●人間の高度情報処理の特徴は,多数のニューロンとその結合による並列性にある.

(2) ニューラルネットワーク
●20世紀半ばに,ニューロンのモデル(マカロック,ピッツ),学習方法(ヘッブ)が提案された.
●さらに学習機械としてパーセプトロンが注目され,最初のブームとなった.
●パーセプトロンの理論的限界の指摘によって衰退していたが,80年代に入り,エネルギー関数の導入,組合せ最適化問題の求解,バックプロパゲーションアルゴリズムの提案によって,再び注目を集める.
●階層型ニューラルネットワークの動作原理は,会社などピラミッド型組織でのボトムアップ的な方針決定方式に似ている.
●学習には,ニューロンの関数の学習,ニューロンの結合の仕方の学(ネットワーク構造の決め方),結合の強さの学習などがある.一般的には,ニューロン間の結合の強さの学習が重要.

(3) ニューロンのモデル
●他のニューロンからの入力和を求め,それを非線形関数に通すものが広く用いられている.

(4) ニューロンの学習
●学習には,入力とその正解のデータを必要とする教師あり学習と,入力だけ必要で正解データは不要な教師なし学習とがある.

3 ニューラルネットワークの実際
(1) ニューラルネットワークの分類
●ニューラルネットワークは,構造,学習アルゴリズム,信号の流れ,時間の取扱い方などによって分類される.

(2) ホップフィールドネット
●エネルギー関数の導入.
●連想記憶と組合わせ最適化問題に適する.

(3) ボルツマンマシン
●ホップフィールドネットの動作に確立と焼きなまし(アニーリング)を導入.
●特に組合わせ最適化問題に適する.

(4) バックプロパゲーション学習アルゴリズム
●パターン認識などに最も広く用いられている学習アルゴリズム.
●従来からの適応アルゴリズムに似ている.

(5) 自己組織化特徴マップ
●教師なし学習アルゴリズムの代表.
●データの前処理等に有効.

(6) 学習ベクトル量子化(LVQ)
●教師あり学習版自己組織化特徴マップ.
●LVQ1とLVQ2がある.

4 ファジイの原理を学ぼう
(1) ファジイ理論の特徴
●主観性と言語的表現を積極的に受け入れている.

(2) ファジイ集合
●メンバーシップ関数によって表現できる.
●排中律と矛盾律は一般に成り立たない.

(3) ファジイ推論(直接法の手順)
1)ルールを記述する.
2)変数となる言語をメンバーシップ関数で表す.
3)入力に対する各ルールの推論結果を求める.
4)各ルールの推論結果から最終的な推論結果を求める.

5 遺伝的アルゴリズム
(1) 遺伝的アルゴリズム
●生物の遺伝と進化のメカニズムを工学的にモデル化したもの.
●複数の個体間の相互協力によって解を探索し,面倒な微分演算などは不要.
●問題点としては,パラメータが多いことや,対象となる問題を遺伝子型に表現する一般的方法がないこと.

(2) 遺伝的アルゴリズムでの基本的操作
遺伝的アルゴリズムでの基本的操作には,選択,交叉,突然変異の3つがある.
1)選択(Selection)では,集団の中での適応度の分布に従って,次のステップで交叉を行う固体の生存分布を決定する.
2)交叉(Crossover)では,2つの染色体間で,遺伝子を組み替えて,新しい個体を発生させる.
3)突然変異(Mutation)では,遺伝子の一部分の値を強制的に変える.

6 ニューラルネットワークの応用例とそのポイント
(1) ニューラルネットワークの大きな特徴
●数値データからの自動的な学習能力や自己組織化能力.

(2) ニューラルネットワークの応用分野
●パターン認識,制御,各種診断,予測・予知,最適化,信号処理などの広い分野.

(3) ニューラルネットワークの採用理由
●入出力関係が定式化できない場合に,学習によって入力に対する出力の写像を獲得する.

(4) ニューラルネットワーク応用の際の重要なチェックポイント
●問題がニューラルネットワークによる解法に適しているか.
●ニューラルネットワークに入力するデータの選択と前処理.
●数値データがニューラルネットワークの学習に十分なだけあるか.
●構造化ネットワークの検討.
●実際に用いる場合,ハードウェアなどの性能との問題.

7 ファジイの応用例とそのポイント
(1) ファジイの大きな特徴
●ノウハウなどの経験的な知識をルールとして記述しやすく,その管理も比較的容易.

(2) ファジイの応用分野
●制御,パターン認識,知的情報処理,医療関係などの広い分野.
●今後は,社会心理学や認知心理学,国際関係論,開発計画,経営意思決定などへの応用も期待大.

(3) ファジイの採用理由
●人間の持っている知識や経験などを表現し,システムに取り込む.
●人間のパターン認識力や総合的判断力をできるだけ模擬する.
●情報を人間にわかりやすく変換する.
●社会システムや人間心理などをモデル化する.

(4) ファジイ応用の際の重要なチェックポイント
●問題がファジイによる解法に適しているか.
●ルールがファジイ処理を行うのに十分なだけあるか.
●実際に用いる場合,ハードウェアなどの性能との問題.

8 遺伝的アルゴリズムの応用例とそのポイント
(1) 遺伝的アルゴリズムの大きな特徴
●多くの組合わせの中からの選択能力に優れている.
●評価関数の微分が不要.

(2) 遺伝的アルゴリズムの応用分野
●設計問題,スケジューリング問題,組合わせ最適化問題,制御問題など.
●プログラムの自動生成などへの応用もある.

(3) 遺伝的アルゴリズムの採用理由
●解を多くの組合わせの中から選ばなければならない.
●評価関数が微分できない.

(4) 遺伝的アルゴリズム応用の際の重要なチェックポイント
●問題が遺伝的アルゴリズムによる解法に適しているか.
●解の明確な評価法があるか.
●解を遺伝子表現できるか.
●実際のシステムで解が求められなかった場合の対応策.

9 ニューラルネットワーク・ファジイ・遺伝的アルゴリズムの融合
問題解法のポイント
1)従来方式をまず検討する.
2)ニューラルネットワーク・ファジイ・遺伝的アルゴリズムの特徴を把握する.
3)選択のポイント(基本コース)
●数値データのみが与えられる場合 → ニューラルネットワーク
●知識(ルール)のみが与えられる場合 → ファジイ(あるいは人工知能)
●多くの組み合わせの中から解を見つける → 遺伝的アルゴリズム
4)先験的知識を積極的に利用する.
5)多くの利用可能な技術の効果的な融合を検討する(上級コース).

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